信用乗車方式

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海外のトランジットモール内を走る路面電車では、乗り降りがとてもスムーズです。水平方向に移動するエレベータという例え方をする場合もあります。実際に、中心部だけは、エレベータのように運賃が無料になっている都市もあります(カナダ・カルガリー、オーストラリア・メルボルンなど)。

しかし、さすがに無料はめずらしく、ほとんどの都市では乗客は運賃を支払っています。

信用乗車とは

日本であれば、乗るときか、降りるときのどちらかで、運転席にある料金箱にお金や回数券を入れる、またはICカードをタッチします。運転席のある出入り口を利用する必要がありますので、そこで渋滞が発生します。両替する人がいれば、さらに乗り降りに時間がかかります。

しかし、海外では、車内で運賃を支払う必要がないケースがほとんどです。乗客はどこの扉からでも出入りできます。運転手もお金を扱う必要がありませんので、運転に専念できます。

もちろん、車内でお金を扱っていないだけで、運賃を払っていないわけではありません。これを「信用乗車方式」(または、信用乗車制、無改札方式など)と呼びます。

ウィキペディアでは、「信用乗車方式」を次のように説明しています(2018.5.15時点)。

信用乗車方式(しんようじょうしゃほうしき)とは、公共交通機関を利用する際、乗客が乗車券を自己管理することで駅員や乗務員による運賃の収受や乗車券の改札を省略する方式。

ウィキペディア「信用乗車方式」

乗客は、乗る前にきっぷを購入します。定期券や1日乗車券があれば、もちろん大丈夫です。電車に乗り降りするときにはチェックされません。乗客がきっぷを持っていることを信用しているという前提のため、「信用乗車」と呼びます。

検札

ただし、乗降時にチェックしない代わりに、ときどき抜き打ちで検札を行います。検札時にきっぷを持っていなければ、高額の罰金を徴収します。その際、言い訳はいっさい通用しません。

管理人も、何回か検札に遭遇しました。フランスのストラスブールでは、車両を停留所ではないところで突然止め、扉から係員が1車両につき3人程度ずつ入ってきて、乗客全員の検札を行いました。

また、香港の新界地区では、停留所に係員が待機していて、降りてくる乗客から任意の人間を呼び止めて、きっぷを確認していました。私は呼び止められなかったので、少し離れて様子を見ていましたが、全員すんなりとチェックを済ませていました。下の写真がそのときの様子です。黄色い制服を着ている方が係員です。あわてて撮ったので、ちょっとピンボケになっています。

香港での検札

香港では違反者はいませんでしたが、ストラスブールでは、管理人と同じ車両にきっぷを持っていなかった乗客がいて、その場で何かの書類を書かされていました。じろじろと見るわけにもいかなかったので、現金のやり取りがあったかどうかはわかりませんでしたが、なんらかのペナルティを課せられていたことは間違いないでしょう。その乗客は、特に抗議するわけでもなく、淡々と応じているようでした。

このほかの都市でも検札に遭ったことがあり、けっこう頻繁に行われているという印象です。あくまでも管理人の経験ですが、1日中乗っていると1回は検札に遭うという気がします。もちろん、確率の問題ですので、1回だけで遭う場合もありますし、2、3日乗り続けても遭わない場合もあります。きっぷは、必ず買いましょう。見つかる確率が高いからということではなく、サービスに対して応分の対価を支払うことは当然です。

信用降車方式?

残念ですが、富山ライトレールによる「信用降車」は、2020年3月22日の南北接続により中止になっています。以下の富山に関する内容は、過去の記録とお考えください。

富山ライトレールの停留所に次のような掲示がありました。

富山ライトレールの信用降車

「信用降車を終日実施いたします!」とあります。
利用方法は、

ICカード利用者のお客様は後方扉に設けられたICカードリーダーにカードを接触させて降車してください。
と書いてあります。

ICカードで運賃を支払うのであれば、係員のいない扉から降りることもできます、ということです。運賃の支払いを係員がチェックせず、利用客が自分でカードをリーダーにタッチするだけで降車します。運賃は乗車ごとに支払いますので、ここまで説明してきた「信用乗車」とは異なります。

しかし、係員がチェックしない方式のため「信用」です。いわゆる「信用乗車」とは異なるので、あえて「信用降車」と言っているのでしょう。管理人の勉強不足のせいかもしれませんが、「信用降車」という用語をこの富山ライトレール以外で使っているケースを見たことはありません。

係員はチェックしませんが、周りの乗客が見ていますのでタッチしないで降りると目立ちます。それでもタッチせずに降りるという確信犯は多くはないでしょうから、ICカードを利用した「信用方式」はうまく考えられていると思います。

ただし、富山ライトレールで使用できるICカードは、富山地区ローカルの交通系ICカード「passca(パスカ)」「ecomyca(えこまいか)」だけです。Suicaなど、他の地域の交通系ICカードを持っていても、この「信用降車」は体験できません。

全国の公共交通機関でどの交通系ICカードが使えるかについては、ブログの「交通系ICカード、自分のカードでどの電車・バスに乗れるのか一覧表で説明します」で紹介しています。興味のある方はお読みください。

ふだん使っている交通系ICカードが旅先でも使えるかどうか、気になったことはありませんか? 自分が持っているSuica(スイカ)などの交通系ICカードが旅行先でも使えるかどうか、現在の状況を一覧にしました。観光や出張などで、日本各地に出かけるときに、お役立てください。

富山地区の交通系ICカード

2018年5月10日から広島電鉄でも「信用降車」が始まりました。対象は「グリーンムーバーLEX(1000形)」という車両だけですが、利用方法は富山ライトレールと同じです。交通系ICカードを持っていれば、係員のいない扉からも降りられます。広電では「信用降車」ではなく「ICカード全扉降車サービス」という言い方になっています。

グリーンムーバーLEX(1000形)限定 ICカード全扉降車サービスの開始について|広島電鉄

広島電鉄では、Suicaなどの「全国相互利用サービス」対象の交通系ICカードが利用できます。管理人も、次回広島を訪れたときにこの「信用降車」を体験してみようと思っています。

トランジットモール内の路面電車や路線バスは、乗り降りに時間がかかっていては利便性が大きく損なわれます。信用乗車は、トランジットモールに合った方式です。日本では「信用乗車方式」はなじまないといった論調をときどき見かけますが、富山での「信用降車」は成功しています。広島も成功するでしょう。
ちゃんと説明すれば、導入できないことはないと思います。

追記(2019.3.12)

ところが、2019年3月12日付の中国新聞に気になる記事(全扉降車で「ただ乗り」増 広電昨春導入、1日推定150人)が出ました。記事の最初の部分を引用します。

広島市内を走る広島電鉄の路面電車の一部で、乗務員のいない扉から降車できるサービスに乗じた無賃乗車が増えていることが同社の調査で分かった。乗降をスムーズにするため昨年5月に始めた「全扉降車」方式の車両で起きており、中には意図的な不正もあった。無賃乗車は1日約150人に上るとみられ、広電は対応に苦慮している。

出典:中国新聞2019年3月12日付

この記事によると、広島電鉄では「全扉降車方式は導入後1年をめどに他の低床車にも拡大する予定だった」が、この状態では拡大は難しいとのことです。一部の不心得者のせいで、せっかく信用乗車方式が駄目になるかもしれません。

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