芳賀・宇都宮LRT建設計画

栃木県の県庁所在都市である宇都宮市と隣接する芳賀町で、路面電車(LRT)を新規に敷設する工事が進んでいます。開業予定は、来年(2023年)8月です。公募で決まった車両の愛称は「ライトライン」です。2022年9月に見てきましたのでご報告します。

ライトライン

LRT整備工事進行中

芳賀・宇都宮LRT|宇都宮市公式WEBサイト

現在(2022.9)、JR宇都宮駅東口から宇都宮市東部の清原工業団地を経て、芳賀・高根沢工業団地付近までの約14.6キロメートルの区間で工事が進められています。進捗状況はまちまちで、停留所が完成して線路が敷設されているところもあれば、停留所建設中や軌道新設工事中など、まさに工事真っ最中というところもあります。

工事中(停留所)

路線のちょうど真ん中あたりで鬼怒川を渡るのですが、そこにかかる橋(鬼怒川橋梁)はすでに完成しているように見えました。

鬼怒川橋梁

工事中(鬼怒川橋梁)

当初の開業予定は2022年(今年)3月でしたが、公共事業の常といいますか、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響といいますか、開業予定は2回延長されています(公式の説明は「野高谷町交差点区間」の工事遅延だそうです)。

情報発信拠点「交通未来都市うつのみやオープンスクエア」

宇都宮市は、ルートの途中にある商業施設「ベルモール」に情報発信拠点「交通未来都市うつのみやオープンスクエア」を設けて、市民に対する情報発信を行っています。

交通未来都市うつのみやオープンスクエア

ルートや工事の進捗状況に関するパンフレットなどが置いてあります。路面電車(LRT)の説明にふさわしいジオラマもありました。

交通未来都市うつのみやオープンスクエア(ジオラマ)

説明員の方が常駐していて質問に答えていらっしゃいました。管理人も「新しくできた鬼怒川橋梁まで歩いていくにはどうすればいいか」といった誰もしないような質問をしましたが、市民でもない面倒そうなおじさん(私です)にも丁寧に説明していただきました。この場を借りてお礼を申し上げます。ありがとうございました。

しかし、もっとも力が入っていたのは、芳賀・宇都宮LRTが走り始めたときに車の運転などはどうすればいいのか、という説明です。「クルマとLRTのルール」「歩行者とLRTのルール」「LRTの乗り方」といったパンフレットがありました。

クルマとLRTのルール

来年(2023年)には芳賀・宇都宮LRTが走り始めます。宇都宮市周辺(だけではありませんが)はクルマ社会です。広島など、すでに路面電車(LRT)が走っているところでは皆さん慣れていますが、ここでは初めての経験です。軌道を超えて右折するときにはどうすればよいか、「電車用」という信号はどういう意味かなど、具体的な心配に対する説明に主眼が置かれていました。

ルート上の信号機には、すでに「電車用」の信号が付いているものも多くありました。

電車用信号機

こういう信号機を実際に目にすると不安になる方も多いと思います。管理人が訪れたときも、クルマの運転について質問している方がいらっしゃいました。

以前(2017年)、管理人が宇都宮を訪れたときは、「オープンスクエア」ではなく「LRT事業に関するオープンハウス」という施設が別の場所にありました。その時点ではまだ計画段階でしたので、説明内容は計画の周知が主でした。反対運動も根強かったので、実現すればどのようになるのか、といった路面電車(LRT)の必要性を訴える内容になっていました。

オープンハウス

ここ5年で、状況が大きく変わりました。

計画の概要

2023年8月開業予定の区間は、「宇都宮駅東口」停留所から「芳賀・高根沢工業団地」停留所まで、14.6キロメートル、19停留所です。東側にある複数の工業団地と宇都宮駅を結びます。通勤時間帯の渋滞緩和が目的です。

途中、5つの停留所には「トランジットセンター」が作られます。以前いただいたパンフレット「◆宇都宮市・芳賀町のLRT事業について」では、「トランジットセンター」について次のように説明しています。

トランジットセンターとは,LRT,路線バス,地域内交通,タクシー,自動車,自転車など,さまざまな交通手段がスムーズに繋がる乗り継ぎ施設のこと。

要するにバスターミナルのような乗り換え場所のことでしょう。5箇所あるとなると、ひとつひとつはそれほど大規模なものではないでしょうが、その分、コンパクトにまとまった乗り換えやすい施設になると思います。

下の画像は、ドイツのフライブルクにある路面電車の停留所です。手前左にある赤と白の車両が路面電車で、右側でこちらを向いているのが路線バスです。階段を昇ったり降りたりせず、簡単に乗り換えられるようになっています。

ドイツのフライブルクにある路面電車の停留所

国内では、富山ライトレールの「岩瀬浜」停留所が有名です。こちらの乗り換えも、目の前の車両に乗り込むだけです。

富山ライトレールの「岩瀬浜」停留所

自家用車を駐車場に止めて公共交通機関に乗り換えることを「パークアンドライド」、路線バスから公共交通機関に乗り換えることを「バスアンドライド」といいます。用語をクリックすれば、それぞれについて説明したページに移動します。

中心市街地をトランジットモールにすると、自家用車をどこに置いておくかという問題が発生します。その解決策のひとつが「パークアンドライド」です。
「バスアンドライド」は、鉄道とバス、それぞれの長所を組み合わせて、自家用車から公共交通機関へシフトさせることで、自動車が引き起こす問題を解決する方法です。

西側延伸

しかし、計画はこれで終わりではありません。JR宇都宮駅を乗り越えてさらに西側に進む計画があります。今回いただいたパンフレット「HELLO,NEW CITY. 交通未来都市うつのみや(LRT START BOOK)」では、次のように説明しています。

JR宇都宮駅西側のLRT整備は、計画区間である「桜通り十文字」付近からのさらなる延伸を含めた「大谷観光地付近」までの5つの区間について検討しています。道路管理者や交通管理者、交通事業者等の関係機関との協議や沿線商店街との意見交換などに取り組みながら、引き続き、事業化に向けた調査・検討を進めていきます。

宇都宮駅の西側は繁華街です。住宅街・工業団地と繁華街が直接、芳賀・宇都宮LRTで結ばれれば、より便利になるでしょう。

トランジットモールは?

トランジットセンターではなく、トランジットモールについてはどうでしょうか。

管理人は2017年にオープンハウスを訪れた際、「トランジットモールを作る計画はありませんか?」とお尋ねしました。ご回答は、

現時点では計画はありません。ただし、駅の西側まで延長される場合は、検討するかもしれません。

というものでした(一言一句このままではありません。管理人が理解した範囲では、ということです)。

少し補足します。現在建設されている芳賀・宇都宮LRT(東側)は、ほとんど住宅街と工業地帯で、トランジットモールを作るような繁華街はありません。したがって、現段階ではトランジットモールを作る場所がありません。

しかし、将来的に宇都宮駅の西側まで路線を延ばす構想があります。駅の西側は繁華街(商業地区)になっていて、西側まで延長されれば、トランジットモールを作るかどうか検討の余地が出てきます。
ただし、西側延伸は先の話で、具体的なことは何も決まっていないということだと思います。

管理人は市民ではありませんが、とお断りした上での質問に対し、丁寧にご回答いただきました。ありがとうございました。

交通系ICカード「totra(トトラ)」

電車やバスなどの公共交通機関の利用には、Suicaのような交通系ICカードが使えると便利です。宇都宮市周辺でも、2021年3月からSuicaをベースとした地域連携ICカード「totra(トトラ)」の利用が始まっています。

交通系ICカード「totra(トトラ)」

芳賀・宇都宮LRTでも、この「totra(トトラ)」が使える予定です。裏面にある「totra事業者」に、すでに利用されている「関東自動車」「ジェイアールバス関東」とともに「宇都宮ライトレール」の名前もあります。

特に「totra(トトラ)」を使えば疑似的な「信用乗車」が実現できます。現金を利用する場合は、降車時に必ず係員のいる出入口を利用しなければなりませんが、「totra(トトラ)」を利用する場合は、すべての出入口から乗降できます。係員のチェックを受けなくても乗り降りできるので「信用乗車」です。海外では一般的な乗降方法ですが、国内では例がありません。ただし、交通系ICカードを使った疑似的な「信用乗車」は、広島電鉄などで実験的に行われています。「信用乗車方式」については、こちらでも説明しています。あわせてご覧ください。

海外では、車内で運賃を支払う必要がないケースがほとんどです。乗客はどこの扉からでも出入りできます。運転手もお金を扱う必要がありませんので、運転に専念できます。 もちろん、車内でお金を扱っていないだけで、運賃を払っていないわけではありません。これを「信用乗車方式」(または、信用乗車制、無改札方式など)と呼びます。

ストラスブールとの類似点

フランスのストラスブールはご存知でしょうか。路面電車(ストラスブールでは「トラム」)による都市再生の代表的な成功例として、日本を始め世界中から多くの人が視察に訪れる都市です。

以前、宇都宮駅前に次のような大きな看板がありました。

宇都宮LRT建設計画

ここに描かれている路面電車(LRT)がストラスブールのトラムです。

ストラスブールのトランジットモールについては「フランス ストラスブール(Strasbourg)」、路面電車についてはブログの「路面電車:ストラスブール・トラムについて」で紹介しています。ご存知なければお読みください。

街の中心である「ノートルダム=ド=ストラスブール大聖堂」の周辺がトランジットモールになっています。いわゆる旧市街のかなり広い範囲に及んでいて、モール内はデパートやショッピングセンターが立ち並ぶショッピングゾーンになっています。
最終更新日 2019年1月6日 フランスのストラスブール(Strasbourg)の路面電車といえば、車両だけでなく都市空間を含めた先進的なデザインで有名です。 乗ってきたので、紹介...

成功例としてあまりにも有名ですので、最初から順風満帆に計画が進んだような気がしますが、もちろんそんなことはありません。ストラスブールの都市再生については、『ストラスブールのまちづくり』(ヴァンソン藤井由美著 学芸出版社)に詳しく書かれていますが、それを読むと最初の状況は宇都宮とそっくりです。

以下にそのころの様子を引用します。引用はすべて『ストラスブールのまちづくり』からです。

ストラスブールでも中心部クレベール広場は巨大な駐車場となり、’80年代には1日に約5万台が都心を通過し、そのうち市内に止まる車は2割にも満たなかった。車に場所を奪われて都心が空洞化し、逆に郊外には次々と大型スーパーマーケット(フランスではレジが100近くあるショッピングセンターも珍しくない)が誘致され、食料品を扱うスーパーを中心にあらゆる種のショップがその周辺に進出したのは日本と同じだ。(28ページ)

現在の芳賀・宇都宮ばかりでなく、世界中どこにでもあるクルマ中心の都市構造です。当時のストラスブールも同じだったようです。

ここでキーになる考え方は「フランスの自治体や住民は決して車の利用に反対しているわけではない。街中での交通渋滞と、バランスを欠いた公共スペースの利用の仕方が住民全体に不利なので、その状態を改善する」だけだ。単に都市から車を排除するのではなく、複数の交通手段を共生させること、市民のニーズに応じての併用である。(33ページ)

クルマ中心の都市構造を、人間中心に変えていこうという試みです。

車ユーザーのデモや反対意見者の署名なども盛んで、軌道を敷設するためにイル河岸の木を倒した時には、木にしがみついて抗議する者もいました。私自身(ブログ注:当時の市長)、地元のお芝居や劇で始終批判の対象に取り上げられ、身体的な攻撃を受けたこともありました。(43ページ)

そしてどこの町でも住民には、トラムが近くにあれば便利だけれど、自分の家の前はいやだというNIMBY(Not In my Back Yard)症候群の人が多いのです。それからいつの時代でも、街へのトラム導入に反対する市民は必ずいます。またトラムなどに全く無関心な人、自分には関係のない話だと考えている市民が多いのが事実です。(95ページ)

一番最初のA線決定の際に最も難しかったのは、市民たちに「トラムは近代的な交通手段である」事実を理解してもらうことでした。当時は、そう遠くない古い時代のトラムのイメージがまだまだ住民の記憶に残っていました。(166ページ)

「身体的な攻撃」というのは、さすがに日本では考えられませんが、強硬な反対意見があったことが伺えます。また、それ以上に市民の無関心や無理解も大きな壁になったようです。

路面電車というとのんびり走るチンチン電車のイメージをみんなが持っていることは、洋の東西を問わず、といったところでしょうか。しかし、現代の路面電車(LRT)は違います。郊外では専用軌道を高速で移動し、乗り換え不要でそのまま市街地に入ります。ストラスブールでは、トラムを建設し、市街地をトランジットモールにして都市再生に成功しました。

引用させていただいた『ストラスブールのまちづくり』の著者は、ストラスブールで日本からの視察団の通訳をされていた方です。そのため、日本からの視察者が「どういう疑問を持ち」「何を知りたいのか」ということをよくご存知で、日本で読んでいてとてもわかりやすい内容になっています。芳賀・宇都宮のLRT建設問題に興味のある方は、一読をおすすめします。

おわりに

芳賀・宇都宮LRTの建設現場を、管理人が過去に訪れた路面電車(LRT)の新規開業工事の写真と比べると同じような感じです。

下の写真はアメリカの首都ワシントンDCにあるLRT(2016年開業)の「Union Station(ユニオン駅)」停留所の開業前の様子です。

ワシントンDC(停留所)

下は、イスラエルのエルサレムにあるLRT(2011年開業)のものです。

エルサレム(工事中)

管理人が車両基地を訪れたときに、たまたま動いている車両「ライトライン」を見かけました。慌てて撮ったのが下の短い動画です。音声はありません。動画が重かったら、申し訳ありません。

沿線に建設中のマンションの広告には、「LRT電停 徒歩約5分」という宣伝が書かれていました。

マンション広告

昭和30年代、40年代に日本各地の路面電車が次々と廃止されて以降、新規に路面電車(LRT)を建設するのは、この芳賀・宇都宮が初ケースとなります。是非とも成功していただきたいと思っています。

[このサイト・ブログ内の関連記事]

スポンサーリンク