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トランジットモールの構成要素は、おもに歩行者と路面電車などの公共交通機関ですが、もう一者、重要な関係者がいます。「自転車」です。
管理人の「トランジットモールの定義」でも、最初に「自転車」が登場します。
- 歩行者、自転車、公共交通機関だけの空間であること
トランジットモール内では自転車の通行が禁止されている場合もありますが、実際に海外のトランジットモールを歩いていると、自転車をよく見かけます。
下の画像は、ドイツ・フライブルクのトランジットモール内を走る自転車です。右端に、2台います。
自転車の割合は多くありません。通行可能な場合、自転車であってもトランジットモール内では徐行です。歩行者がてんでんばらばらに歩いていますので、とてもスピードは出せません。歩くほうが快適です。
自転車置き場はあちこちにありますので、自転車を置いて歩いている人が多いようです。
下の画像は、ドイツ・フライブルクのトランジットモールのすぐ外にある自転車置き場です。
この記事では、海外や国内での自転車の利用環境について、トランジットモールとの関連の観点から説明します。
バイクアンドライド
中心市街地を訪れる際に、郊外の駐車場に自動車を置いて路面電車や路線バスに乗り換えることを「パークアンドライド(Park & Ride)」、路線バスから電車に乗り継ぐことを「バスアンドライド(Bus & Ride)」といいます。
自動車ではなく自転車を郊外の駐輪場に置いておくことは、「バイクアンドライド(Bike & Ride)」です。
下の画像は、アメリカ・ポートランド郊外の「SE Tacoma Johnson Creek」停留所にあるバイクアンドライドの駐輪場です。
この停留所から、MAX(マックス)という路面電車に乗って、ポートランドの中心部に行くことができます。
この停留所には、駐車場やバス停もあります。
大きな停留所は、このように「バイクアンドライド」「パークアンドライド」「バスアンドライド」のすべての機能を備えたターミナルになっています。
「Bike & Ride」や「Park & Ride」という青い看板の上に書かれている「TRI MET(トライメット)」とは、ポートランド地域で路面電車や路線バスなどを運営する公共機関です。
駐輪場や駐車場も、この「TRI MET(トライメット)」が管理しています。
路面電車MAXを建設するときに、同時に駐車場、駐輪場、バスターミナルを整備したことがわかります。
現在、新しい路面電車(LRT)の建設が予定されている宇都宮でも、大きな停留所を「トランジットセンター」として整備し、駐輪場や駐車場、バスターミナルを設置する予定になっています。
管理人が、宇都宮を訪れたときにいただいたパンフレットにも、次のように記されていました。
トランジットセンターとは,LRT,路線バス,地域内交通,タクシー,自動車,自転車など,さまざまな交通手段がスムーズに繋がる乗り継ぎ施設のこと。
トランジットセンターには、駐車場とともに駐輪場も整備されるでしょう。
ただし、バイクアンドライドは、このような立派な駐輪場ばかりではありません。駐車場と異なり、駐輪場であれば、小さなスペースで設置できます。
下の画像は、ドイツ・フライブルクの「Lassberg-str.」停留所にある駐輪場です。けっこう乱雑に自転車が置いてあります。
奥に見える白の車体と青の車体が路面電車(トラム)、赤の車体が路線バスです。
こういう駐輪場であれば、日本でもよく見かけます。
下の画像は、富山ライトレールの「粟島(大阪屋ショップ前)」停留所にある駐輪場と駐車場です。
ここに自転車を置いて、ライトレールで中心部に向かえば、立派なバイクアンドライドです。
自転車道
よく言われることですが、海外(特に欧米)では自転車専用道路が整備されていますが、それに比べて日本では・・・。
確かに、海外のトランジットモールを訪れると都市周辺での自転車道がよく整備されていると感じます。
下の画像は、ドイツ・フライブルクで撮影したものです。自転車専用道路ではありませんが、大きなスペースが自転車用になっていることがわかります。
下の画像では、アメリカ・ポートランドにあるストリートカーの「SW Moody & Gibbs」停留所を上から撮っています。
下から順に、歩道、自転車道、路面電車の軌道、車道となっています。自転車道は、方向別に車線が分かれています。
路面電車の軌道は車道と共用です。路面電車の後ろに自動車がぎりぎりで写っていますが、路面電車の乗降が終わるまでじっと待っています。反対車線は空いていますので、追い越しは禁止のようです。
この画像で見る限り、4者はほぼ同じスペースを占めています。それだけ、歩道、自転車道が優遇されています。
ただし、自転車が走るルートも厳格に決められています。下は、上の画像の自転車道の分岐部分です。
この停留所の周辺はトランジットモールではありませんが、トランジットモール内では歩行者、自転車、公共交通機関が雑然としていますので、自転車もあまり走りやすくはありません。それがよいところで、自動車を気にしなくていい代わりに、自転車に気をつけなければならないとしたらトランジットモールの意味がありません。
ゆっくりゆったり散歩や買い物が楽しめることがトランジットモールの魅力です。トランジットモール内の商店も、だからこそ売り上げが上がります。
必然的に、自転車で来た人は、バイクアンドライドで乗り換えるか、トランジットモール内外の駐輪場に自転車を置き、徒歩で散策します。
自動車と異なり、自転車であればトランジットモール内に入れるケースも多いので、中の駐輪場に止めて歩くことも可能です。
レンタサイクル
旅行先でちょっと自転車を利用できるレンタサイクルはご存知でしょう。国内外に数多くあります。トランジットモールのある街にもレンタサイクルは似合います。
例えば、フランスのストラスブールには、下の画像のようなレンタサイクルがあります。
名前は「VELHOP」です。すぐ横に貸出機もありました。
貸出機のそばには、パンフレットもありました。
旅行者でも気軽に利用できます。
下の画像は、金沢のレンタサイクル「まちのり」です。デザインがストラスブールの「VELHOP」によく似ています。
この記事を執筆した時点(2018.1.31)では、大雪のため休止しています。春を待ちましょう。
前橋のレンタサイクルは「マエチャリ」です。前橋駅前で借りられます。
2017年10月と2018年3月、7月にトランジットモールの社会実験を行った富山では、富山駅の再開発に合わせて、駅前の目立つ場所にレンタサイクル「アヴィレ」のステーションを設置しました。
富山では、交通系ICカードの「passca(パスカ)」か「ecomyca(えこまいか)」を持っていれば、そのカードで自転車を借りられます。残念なことに「passca(パスカ)」「ecomyca(えこまいか)」は富山地区ローカルの交通系ICカードです。今後、Suica(スイカ)などの交通系ICカード「全国相互利用サービス」対象カードでも使えるようになることを期待しています。
交通系ICカードが使えるだけでなく、富山のレンタサイクルのシステムは先進的です。
レンタサイクルを借りられるステーションは、富山駅前をはじめ市内20か所にあります(2018.1.31時点)。自転車は、これらのステーションのどこでも借りられますし、どこでも返せます。
レンタサイクルでは借りたステーションに戻す方式が一般的ですが、ここでは自由に選択できます。片道だけの短時間の利用も可能です。
こういう方式(交通系ICカードでレンタル・返却場所を選択可能)のレンタサイクルは、現在、国内でも急速に広まっています。
例えば、広島市観光レンタサイクル「ぴーすくる」もこの方式です。
携帯電話やスマホで予約できたり、空き状況を確認できたりするケースも多く、旅行先でちょっとだけ自転車を使うときに便利です。
次回、旅行する際には、旅先でこのようなレンタサイクルのシステムがないか、確認することをおすすめします。
電車・バスに乗せて
昨年(2017年)の年末に自転車をそのまま乗せられる電車をJR東日本が運行するという話題がニュースになっていました。今年の1月から臨時列車として運行が始まっています。
通常、自転車を電車に持ち込むためには、折りたたむか分解して専用の袋に入れる必要があります。しかし、これでは大変です。
海外では、自転車をそのまま電車に持ち込めるところが少なくありません。特に、路面電車では、道路から簡単に車内に移動できますので、自転車の持ち込みも便利です。
下の画像は、アメリカ・ポートランドの路面電車MAXの車内です。扉の横に、自転車を立てかけるための専用のスペースがあります。
ポートランドでは、路線バスにも自転車を積めます。
路線バスではさすがに車内には持ち込めないため、先頭部分に専用の置き場が作られています。自転車の持ち主が自分でセットしていました。手馴れた様子で、すぐに作業が終わり、バスの運行には支障がありません。
国内でも、例えば、熊本電鉄では自転車をそのまま電車内に持ち込めます。下の画像は、その様子です。
混んでいないからできるということは言えるでしょう。熊本電鉄では、昼の時間帯だけ自転車持ち込めるようになっています。料金は無料です。
路面電車ばかりでなく、通常の電車も積極的に自転車を受け入れています。
次の画像は、アメリカ全土を走る鉄道「Amtrak(アムトラック)」のパンフレットです。
タイトルは「TAKE YOUR BICYCLE ON THE TRAIN(あなたの自転車を列車に乗せましょう)」です。内容は、予約方法や車内の紹介です。
おわりに
トランジットモールの話題から少し離れたものもありましたが、トランジットモール内で走るというより、トランジットモールまでの移動手段として自転車は有用です。
家からトランジットモールまでずっと走るのは大変な場合もあるでしょうが、バイクアンドライドや電車・バスを活用すれば、中心市街地の活性化というトランジットモールの目的とも一致します。